中小企業が直面する評価制度の課題と賃上げのジレンマ
最近発表された「2026年(第1回)人的資本・労務リスク調査」の結果は、日本の中小企業が抱える深刻な構造的課題を明らかにしています。この調査は、会社の規模が30人以上100人未満の企業を対象に実施され、中小企業の人事制度や賃上げ、労働時間管理、ハラスメント対策について詳しく分析されました。
調査結果の概要
調査によると、なんと約49.8%の企業が「評価制度が機能していない」または「評価制度が存在しない」と回答しています。この事実は、ほぼ半数の企業が自社の評価制度に問題を感じていることを示しており、特に「機能していない」と回答した企業の中では62.6%が離職に強い影響があると認識している結果が出ています。これは、評価制度の不備が離職の直接的な要因である可能性が高いことを示唆しています。
さらに、賃上げについても調査が行われ、令和8年の賃上げ予定については、55.9%の企業が3%以上の賃上げを予定していると回答しました。しかしながら、3%未満と回答した企業も44.1%に上り、物価上昇に伴う収益圧迫と賃上げの決断の間で、ギリギリの選択を迫られている実態が浮かび上がりました。
昨今の人手不足が顕著な業界、特に医療・介護、小売・サービス、建設業では、更なる賃上げの圧力が高まっていることも見逃せません。
労働時間管理に関する習慣
また、労働時間の管理方法に関するデータも示されました。調査の結果、36.4%の企業が勤怠管理システムを利用している一方で、26.8%はExcel、22.1%は出勤簿、11.3%は自己申告方式を採用しており、全体の60.2%が客観性に欠ける方法で労働時間を管理していることが判明しました。こうした管理方法の不備は、未払い残業リスクを高める要因ともなり得ます。
企業の退職代行に対する意識
興味深いことに、退職代行サービスについての企業の意識も明らかになりました。61.5%の企業が「特に気にしていない」と回答し、これにより、企業が退職代行サービスへの対応に慣れてきていることが示唆されます。
構造的な課題
この調査から見えてきたのは、評価制度の機能不全、賃上げと収益のジレンマ、労働時間管理のリスク、人事データ活用の遅れという四つの構造的な問題です。これらは単独の問題ではなく、関連し合いながら企業の人的資本経営に影響を及ぼしているとの専門家の見解もあります。
特定社会保険労務士の川口正倫氏は、「多くの企業が賃上げを検討していますが、評価制度が機能していない場合、賃上げだけでは離職を防げない」と警鐘を鳴らします。バランスの取れた評価、適切な労働管理、人事データの活用が、真の人的資本経営の肝要な要素だと指摘しています。
結論
中小企業の人事制度が直面している課題は深刻ですが、これを乗り越えるためには、企業が自身の評価制度を見直し、賃上げの戦略を根本的に考える必要があります。人的資本の重要性がますます増す中、今後の企業が取るべきアプローチが待たれます。そのためにも、今回の調査はぜひ多くの企業にとっての指針となることでしょう。